士と師の使い分け ~その2~

事務局の三浦です。

 士と師の使い分け、2回目となります。この使い分けが何でそうなんかを歴史的な考察を加えた説得力のあるサイトが見つかりましたので、簡単に抜粋・要約し紹介しておきます。 興味のある方は下記を参照して下さい。ちょっと長いですが面白いです。
日本労働研究雑誌 【特集】「先生」の働き方:はじめに
師業と士業の由来─医師はなぜ医士ではないのか 西澤  弘(労働政策研究・研修機構主任研究員)
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2014/04/pdf/006-009.pdf#search=’%E5%A3%AB%E3%81%A8%E5%B8%AB%E3%81%AE%E9%81%95%E3%81%84′

 総務省の日本標準職業分類に設定されている小分類職業では、「〜師」又は「〜士」の表記になっている職業は、建設・測量、保健医療、社会福祉、法務、経営、その他の6つの分野にわたっていますが、長くなりますので保健医療分野に限定して師業と士業の成り立ちを紹介します。

文字学的アプローチからは
 わが国では、奈良・平安時代以降,中国語とやや異なる意味で師を用いてきており 1. 師と為(し)の字が同一であることから、「為(す)ること」(特定の仕事に従事する人)を「師」の字を借用して表記した。土師(はじ、土器・埴輪の製作人),鋳物師(いもじ鋳物職人)、工師(工匠をつかさどる官吏)などがその例である。 師は諸々の工匠(たくみ)の称であり、ものづくりの職業を表すときに用いられた。 2. 技術・技芸の専門家であることを表すときにも師が用いられた。陰陽師(おんみょうじ)、医師(くすし)、薬師(くすし)、経師(きょうじ)、絵師などがこの用法に該当する。
 平安時代から江戸時代までの間に実際に使われた士と師の用例、とりわけ職業名としての使われ方をみると、士の付いた名称は、さむらいの意味での士と男子の通称としての士にほぼ限定される。士が職業の従事者を表す接尾辞として使われるようになったのは明治時代以降のことである。
 一方、師の付いた職業はいずれも上述の師の1と2の意味で使用されている。用例は多いとはいえ、現代的な意味での専門的職業の部類に入るのは、陰陽師、医師、薬師、連歌師、琵琶法師、田楽師、猿楽師などであり、そのうち本稿で扱う分野に該当する職業は医師と薬師だけである。したがって大局的にみれば専門職の職業名の表記に師を使用するようになったのも明治時代以降のことであるといえよう。

歴史的アプローチからは
 「〜師」又は「〜士」の付く職業名は保健医療の分野に21 職業ある。これらの職業はいずれも法的な裏付けにより国が資格の交付にかかわっている国家資格の職業であるという点で共通している。
 この分野では、医師、薬剤師、看護師のように師の付くものと、理学療法士や歯科衛生士のように士の付くものとがある。両者はどのように使い分けられているのだろうか。
まず師の職業からみていく。医師,歯科医師,薬剤師,獣医師の名称が一般に普及したのはいつ頃のことであろうか。その足跡を政府の公的職業分類で確認してみよう。医師の名称は既に明治2(1869)年の駿河国を対象に実施された人口調査の職業分類に使用されている。この分類ではまだ馬医の名称が使われていたが、明治12(1879)年の甲斐国現在人別調の職業分類で初めて獣医の名称が使用された。その後、昭和5(1930)年の国勢調査用職業分類には獣医師の項目が設定されている。歯科医師の名称は明治10(1877)年の日本職業区分稿に登場する。薬剤師の名称が初めて職業分類に現れたのは明治38(1905)年に設定された内閣統計局の職業分類である。このように、これらの職業名は既に明治時代(獣医師のみ昭和初年)に広く使われていたと考えられる。
 次に、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師の由来をみてみよう。江戸時代に按摩術や鍼灸術を行う者はそれぞれ按摩、鍼灸医と呼ばれていた。明治になると、西洋医学を推進する医制のもとで伝統的な按摩、鍼灸は医制の枠組み外の民間療法として扱われ、明治44(1911)年に免許鑑札の交付による営業許可制になった。更に,大正9(1920)年になると、それまで接骨医以外の者には認められていなかった柔道整復術と、大正時代に西洋から導入されたマッサージがともに営業許可の対象になった。第二次大戦後,開業を規制する鑑札制度は、施術を行う人に対する国家資格の免許に変わった。この点を強調するため昭和22(1947)年のあん摩・はり・きゅう・柔道整復等営業法は、1951 年に、あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法に改称された。鍼灸師の名称は既に明治38(1905)年の内閣統計局の職業分類に使用されているが、あん摩師は第二次大戦以前の職業分類では按摩(又はあん摩)の表記に止まっている。柔道整復師は、昭和15(1940)年の国勢調査用職業分類に接骨師の名称で項目が設定されている。
 現在の保健師、助産師、看護師のうち、助産師は産婆と呼ばれ,明治以前に既に女性の職業として確立していた。産婆の名称とその資格が公的に定まったのは、明治7(1874)年の医制と明治32(1899)年の産婆規則によってである。看護婦に資格制度が導入されたのは大正4(1915)年の看護婦規則による。保健婦は昭和12(1937)年の保健所法で名称が確立し、昭和16(1941)年の保健婦規則によって資格が規定された。これら3つの職業は大枠で看護分野の職業に該当することから、第二次大戦後、ひとつの法律(昭和23(1948)年保健婦助産婦看護婦法)のもとに業務や資格が定められた。
これらの職業には,①医療分野の技術的な職業であること、②第二次大戦前に既に職業として成立していたこと、の2つの共通点がある。これが職業名に師を付ける基準になっていると考えられる。

 士の付く職業は医療技術の職業(医師・歯科医師の指示のもとに業務を遂行する職業)にみられるが、この分野には師の付く職業もある。このため師と士の使い分けのルールがわかりにくくなっている。とりわけ紛らわしいのは「ぎし」の名称である。診療放射線技師と臨床検査技師には「技師」が、臨床工学技士には「技士」がそれぞれ使われている。技師と技士の使い分けは職業の性質ではなく、当該職業の成立時期に関係しているとみられる。人体のレントゲン撮影の業務と医療分野における検体検査業務は、既に第二次大戦前に職業として認知されており、そのことが1951 年の診療放射線技師法と1958 年の衛生検査技師法で技師の名称を使用する根拠になっていると考えられる。他方、臨床工学技士は技術的な職業であるが、職業として成立したのは1987 年の臨床工学技士法によってである。歯科技工士は、明らかに技術的な職業である。歯科技工士法が成立したのは第二次大戦後の1955 年であるが、昭和15(1940)年の国勢調査用職業分類には既に歯科技工の項目が設定されており、歯科技工の業務が第二次大戦前に職業として成立していたことを示している。つまり,歯科技工士は師の名称に関する上述の基準を満たしているにもかかわらず、接尾辞には「師」ではなく「士」が使われている。この点は究明する必要があるが、第二次大戦後に生まれた職業には、当該職業の性質を問わず「士」を共通の接尾辞として使用することがルールになっているとみられる。

結論
 保健医療おける師又は士の付く職業についてまとめると次のようになる。 1. 師又は士の付く職業は、法律で業務や試験内容等が規定された国家資格の職業である。 2. 師の付く職業は技術を有する専門家であることを表しており、接尾辞としての師は奈良・平安時代から使用されてきた歴史的な職業名表記である。現在では,保健医療の分野における技術的な職業であること、かつ第二次大戦前に既に職業として成立している(又は認知されている)ことの2点が師の付く職業の共通項になっている。 3. 士は明治時代になって西洋の制度を導入するようになってから使われ始めた職業名表記である。当初は技術的な職業以外に用いられていたが、その後、職業の性質及びその成立時期を問わず、専門的な性質の職業を表す共通の接尾辞として使用されている。師と士は、ジェンダーフリーの観点から職業名を設定する場合の接尾辞としても使用されている。

 抜粋・要約と言っておきながらまとめきれず、とんでもない長文になってしまいました。師・士については第二次大戦前に既に職業として成立している(又は認知されている)ことがメルクマールとなりそうです(歯科技工士の例外もありますが)。 その他法務、経営の分野もあります。士と人となぜ違うのか(弁護士、公証人)など興味を持たれた方は是非、標記のサイトを訪れて下さい。

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